、つぎつぎに読んで行くうちに、僕はもつとさまざまのことを考へさせられました。この四つの世界は起承転結の配列によつて、みごとに効果をあげてゐるやうですが、僕を少しぞつとさせるのは、あの怪談に似た手のこんだ構成法でした。
 小人国からの帰りに、ガリヴアは船長にむかつて体験談をすると、てつきり頭がどうかしてゐると思はれます。そこでポケツトから小さな牛や羊をとり出して見せるのです。そして、その豆粒ほどの家畜をイギリスに持つて帰つて飼つたなどといふところは、まだ軽い気分で読めます。しかし、大人国からの帰りには、ガリヴアは箱のなかにゐて、鷲にさらはれて海に墜されて、船で救はれるのですが、ここでも船員たちとガリヴアとの感覚がまるで喰ひちがつてゐます。最初私を発見したとき何か大きな鳥でも空を飛んでゐなかつたかと、ガリヴアが訊ねると、船員の一人は、鷲が三羽北を指して飛んでゐるのを見た、が大きさは別に普通の鷲と変つたところはなかつたと答へます。もつとも非常に高く飛んでゐたので小さく見えたのだらうとガリヴアは考へるのですが、これは少し念が入りすぎてゐるやうです。そして、こんな手法は馬の国からの帰航では更らに
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