ガリヴア旅行記
K・Cに
原民喜
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この頃よく雨が降りますが、今日は雨のあがつた空にむくむくと雲がただよつてゐます。今日は八月六日、ヒロシマの惨劇から五年目です。僕は部屋にひとり寝転んで、何ももう考へたくないほど、ぼんやりしてゐます。子供のとき、僕は姉からこんな怪談をきかされたのを、おもひだします。ある男が暗い夜道で、怕い怕いお化けと出逢ふ。無我夢中で逃げて行く。それから灯のついた一軒屋に飛込むと、そこには普通の人間がゐる。吻と安心して、彼はさきほど出逢つたお化けのことを相手に話しだす。すると、相手は「それはこんな風なお化けだらう」と云ふ。見ると、相手はさつきのお化けとそつくりなのだ。男はキヤツと叫んで気絶する。――この話は子供心に私をぞつとさすものがありました。一度遇つたお化けに二度も遇はすなど、怪談といふものも、なかなか手のこんだ構成法をとつてゐるやうです。
先日から僕はスウイフトのガリヴア旅行記をかなり詳しく読み返してみました。小人国の話な
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