来るものには何にも関係のない事だと気が付きました。親は始めから自分の継承者を世に出すなんて事は少しも意識しないうちに子供を産みます。少くも私はさうでした。そして勿論子供から産んで呉れと頼まれた事もありません。そんな無意識のうちに不用意のうちに、尊い一箇の生命を無から有に提供すると云ふ事は、然も其責任をまだ当然持ち得ないと自覚して居たとしたら、此れ程世の中に恐ろしい事があるでせうか。これが生命を単独に形造つて胎外に出て了つてからならば、務めても出来ない不満は涙を呑んでも我慢しなければならないでせうが、まだ其処まで単独のものでなく母胎の命の中の一物であるうちに母が胎児の幸福と信ずる信念通りにこれを左右する事は母の権内にあつていゝ事と思ひます。母が死ねば当然胎児も死ぬ運命ですし、猶母の命を助ける為に胎児を殺す事は公に許されてる事の様に承知して居ました。私は母の為に児を捨てたのではなく、児の為に児を捨てたのでした。自分一己の事なら間違つたら遣り直す事も出来ます。粉砕され様と干死なりとそれは自分の事ですが、縦《たと》へ子供でも一度び胎外へ出てはもう親とは別の箇体です。然も或時期までの全責任は産ん
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