の。くどい様ですけど此度の事の責任は全部私に任せて下さいね。そして貴方はお仕事の方|丈《だ》けを専心遣つて下さいね。私は貴方の事許りを考へて優しい女らしい事を並べたてゝ、只貴方を泣かすのではないんですの。いつか御相談しました様にさうして下されば貴方のお仕事の中で私も活きて行かれるんですもの。私を憐んで下さるならどうぞ貴方のお仕事を可愛がつて下さい。そして私の事も可愛がつて下さい。そして私の寝間着を抱いて下さい。私の着物でも私のお茶碗でも私のお箸でも私の櫛でも私の白粉でも私の私の何でもをキツスしてやつて下さい。あゝ私は此処に居てもそれが皆判ります。
 貴方は世の中の嘲罵を浴びて被入るでせうね。堕胎女の情夫はあれだと。貴方はぢき其れが怎《ど》うした? とそふ気になつて力み返るんでせう? さう思ふと私はふんと笑ひたくなります、何でもいゝ、二人を知つてるのは二人ですはね。二人ぢやない、二人はほんとに独りなんですものね。私はほんとに嬉しいのです。毎日の訊問に疲れ切つた時でも私を隅から隅迄知つてる人が今仕事をして居る。私は凡てを知られて居ると思ふと、世の中の人間が皆私に唾してもあゝ沢山だと思ふんで
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