し、代用食ばつかり食べて、何がよくて戦争なンかするンでせう? 私達も、二三日して、水兵の制服のテープかゞりに勤労奉仕に行くンだけど、くさくさしちやふわ‥‥」
と、云つた。
「ねえ、私のうちに松葉さんつて姐さんがゐたのンだけど、此間、川治温泉で兵隊さんと心中しちやつたのよ。新聞には出なかつたけれど、松葉さんの死骸引取りに行つたうちのかあさんの話では、とても可哀想だつたつて云つてたわ。遺書も何もなくつて、松葉さんが刀で乳のとこ突かれてるし、軍服ぬいで、襯衣一枚になつてる兵隊さんは、首をくゝつてたンだつて、雑木林で死んでたンですよ‥‥二人とも勇気があつていゝわね。――松葉姐さんは、前からよく死にたいつて云つてたンだけど、本当にやつちやつたのね。兵隊さんは赤羽の工兵隊の人ですつて、お家は商売してるつて云つてたけど、何屋さんなンだか。‥‥雑木林のなかの一重の桜の花が、薄い硝子の破片をくつゝけたみたいにびつちり咲いてたンですとさ。‥‥とても哀れだつたつて。憲兵隊も来たりして、誰も寄せつけない程きびしかつたつて話なのよ‥‥。でも、二人とも、死んぢやつたから本望だわね。二人はいゝ気味だと云つてるでせ
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