瀑布
林芙美子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)酒匂《さかは》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「ころもへん+挙」、第4水準2−88−28]を
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 橋の上も、河添ひの道も、群集が犇めきあつてゐる。群集の後から覗いてみたが、澱んだ河の表面が、青黒く光つて見えるだけで、何も見えない。そのくせ群集は、折り重なるやうにして、水の上を覗いてゐる。何だらうと云ひあひながら、前の方へ押し出されたものは、見てしまつた安堵で、後から押される人間の力を振り切つて、犇めく人の間を、ぐんぐんと外側へ出て来てゐる。「何です?」いやにおもねるやうな尋づねかたで、訊くものもある。直吉も、人の切れ目のなかに肩を入れて、ぐいぐいと押されて、前の方へ吸ひ込まれて行つた。埃に汚れた八ツ手の葉が胸元へばらばらと葉を弾き寄せる。それを掻き分けて、ぐつと木柵に凭れるやうにして、河底を覗き込むと白つぽいものが、汚れた水の上に浮いてゐた。靄のかゝつた水の上に、人間が腕組みをして、ぽか
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