と云う廣さなのだろうと思いました。
 木から降りて、私はまたそこいらを飛んでみました。とてもいい氣持ちに飛ぶ事が出來ます。
 だんだん夜が明けて來ましたので、私は或家の軒下にとまって、じつと四圍の氣配をみていました。私の住んでいた家はもう判りません。夜があけかかると、近くのところで、鷄の鳴く聲がしました。小鳥が眼をさまして來ました。私はおなかが空いて仕方がないので、軒下のくもの巣をつついたり、ごみをつついてみたりしました。
 夜が明けて來ますと、私はもうまばゆくて珍らしい世界をみる事が出來ません。陽がぽかぽかとてりつけて、軒下が妙に暑苦しくなり、私は眠くなりました。
 その夜、私は、また、軒さきを出て、勇氣を出して飛びました。柔い土の上には、おいしい蟲の御馳走があります。私はお腹がいっぱいになるとまた飛びました。
 三晩目には、私は、もうだいぶ遠くまで、もとの住家から離れてしまったようですが、とうとうまた人間につかまって、トラックと云うものに乘せられて、一日じゅう私は生きた心地もなく動くものに乘せられていました。
 廣い廣い海と云うものも呆んやりとした眼にうつりました。私はまた人間につ
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