かまって前よりも小さい竹の籠に入れられました。小さい籠は、私が羽根を擴げるといっぱいになるほど狹いのです。私はいきおいよく、二三度羽ばたきしました。すると、籠の上のおもしがはずれて、籠がひっくり返えりました。私はまたそとへ出ることが出來ました。
 その家は自動車のガレージだったので、私はそのままぱたぱたと、コンクリートの固い道を這うように飛びました。水道の水がしたたっているので、ごくごく飮みました。とてもおいしい水でした。すると、何だか黒い大きい動物が、とても大きい聲で吠えたてて私に向って來ます。私はびっくりしてトラックの上へ飛びあがりました。その動物は犬だったのです。
 犬はとてもよく吠えました。私はそっと屋根裏づたいに戸外へ出て、月に光った白い道の方へ飛んでゆきました。白い道だと思ったのは廣い河でした。河岸にはいっぱい食物がありました。森閑として、人間は家の中によく眠っているので、四圍はまるで私だけの天地です。
 私は、もう、もとの住家に戻ってゆきたい氣は少しもありませんでした。でも、時々、やさしかったお孃さんの事を思い出しました。
 河にはどうして、こんなにどっさり水があるのかし
前へ 次へ
全8ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング