理された恋愛は、悪いことだとはおもわない。私は現在ひとの奥さんだけれど、しみじみこんな事を考える折がある。旦那様に対して申しわけのないことだけれども、旦那様だって何を考えているか判ったものじゃない。きびしい眼からみれば、ふしだらな事かも知れないけれども、この世にあふれている無数の夫婦者の中に、こんな気持ちのない夫婦者はおそらく一人もありはしないだろう。一人の処女が結婚をして、初めてよその男に恋をするのは、あれはどうした事なのだろうか。見合結婚をして、一人の男の経験が済むと、何か一足《いっそく》とびに違った世界に眼がとどいてゆく。良人の友達の中に、あるかなきかの恋情を寄せてみたりする場合もある。そのあるかなきかの恋情は、ほんの浮気のていど[#「ていど」に傍点]で、家庭を不幸にするものじゃないとおもうがどうでしょうか。
 良人と添寝《そいね》しながらも、なおかつよその男の夢を見るのだ。その夢の中の男をしばって貰うわけにはゆかない。これも、変型だが、恋愛の一つだろう。たとえクリスチャンの奥さんでも、こんな夢の一つ二つの記憶はあるに違いない。交通整理のゆきとどいた町には怪我人が少ないように、恋
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