恋愛の微醺
林芙美子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)幼《おさ》ない頃の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)不貞|至極《しごく》なこと
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「しげき」に傍点]
−−
恋愛と云うものは、この空気のなかにどんな波動で飛んでいるのか知らないけれども、男が女がこの波動にぶちあたると、花が肥料を貰ったように生々として来る。幼《おさ》ない頃の恋愛は、まだ根が小さく青いので、心残りな、食べかけの皿をとってゆかれたような切ない恋愛の記憶を残すものだ。老《ふ》けた女のひとに出逢うと、娘の頃にせめていまのようなこころがあったらどんなによかったでしょうと云う。だから、心残りのないように。深尾さんの詩に、むさぼりて 吸へどもかなし 苦《にが》さのみ 舌にのこりて 吸へどもかなし、ばらの花びら こんなのがある。どんな新らしいと云う形式の恋愛でも、吸へどもかなし 苦《にが》さのみで、結局、魂の上に跡をとどめるものは苦《にが》さのみじゃないだろうか。私は新らしいと云う恋愛の道を知らない。新らしいと云う
次へ
全10ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング