いが、なかなかさかっているのだろう。門を這入ると足のすれあっている音や、レコードが鳴っている。――私の家はかなり広いので、(セットの貧弱なのが心残りなのだが)、あんまり漠然としているので、そうそう旅をしなくなった。あっちの片隅《かたすみ》、こっちの片隅と自分の机をうつして行くのだが、こんな大きな家で案外安住の書斎がない。時に台所の台の上で書いたり、茶の間で書いたりして旅へ出たような気でいたりした。
 ここの家からは中井の駅が三分位になり、吉屋さんの家が近くなった。近くなったくせに訪問しあうことはまれで、なかなかヨインのある御近所だと思っている。東中野へ出て行く道には、大名笹《だいみょうささ》で囲まれた板垣直子《いたがきなおこ》さんの奥ゆかしい構えがある。ひところ、大田洋子《おおたようこ》さんも落合の材木屋の二階にいたのだが、牛込《うしごめ》の方へ越してしまった。中井の駅の前には辻山春子《つじやまはるこ》さんの旦那さんがお医者を開業されたし、神近市子《かみちかいちこ》女史も落合には古くからケンザイだ。これで、なかなか女流作家が多い。
 落合には女流作家とプロレタリア作家が多いと云うけれど
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