た。南はチセヌプリ、イワタヌシの山岳に圍まれ、その後方に、コトニプリ、オサツペヌプリ、サマツケヌプリの山々が流れてゐる。
 湖が廣いので一望に眺めることが出來ない。渚はまるで海のやうで砂地はどこを掘つても湯があふれた。水ぎはの波の色は糸を引いたやうな黄色い湯花の波で、不思議な景色だ。
 和琴半島と云つても小さな半島で、大町桂月がつけたのだと聞いた。
 歸途は屈斜路湖の沿岸をめぐつて、川湯の部落へ向つた。途中、私達は硫黄山へも登つた。這ひ松や、白い花を萬朶と咲かせたいそつゝじ[#「いそつゝじ」に白丸傍点]のお花畑へ出た。いそつゝじ[#「いそつゝじ」に白丸傍点]の花は頬をよせると、ふくいく[#「ふくいく」に白丸傍点]とした匂ひをはなつて、姿に似ず何時までも匂ひが浸みて來る。此お花畑は硫黄山麓十五六萬アールに亙つてゐる。
 硫黄山には樹木が一本もなかつた。それなのに、中腹の柵の中には保安林と書いてあつた。どつとんどつとんまるで動いてゐるモーターの上を歩いてゐるやうなすさまじい活火山で、登りながら、硫氣を噴出してゐる氣孔の上へ石を投げると、面白い程その石がミヂンに碎け散るのであつた。銀製の指輪
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