。運動場の木柵には馬もつないであつた。校舍をめぐらした紅白の鯨幕が風をはらんで獅子舞ひのやうに見えた。白い運動着の先生はメガホンを眼にあてたりしてゐた。校舍はぽつんと荒地の中にあつて、その小さい校舍の横には運動會相手の菓子屋が小さい店を張つてゐた。
 私達は、此小部落を通つて和琴《わこと》半島へ這入つて行つた。渚には茹で玉子やせんべいを商ふ茶店が一軒あつた。茶店の前には野天の自然風呂があつて、岩と岩との割目に出來た浴槽にひたつて、部落のお神さんや子供達が茹でられたやうに紅い皮膚をして聲高く世間話をしてゐた。自然で何の工作もしてないだけに、私は夜の此天然温泉の風景も思ひ描く。月の明るい夜なぞどんなにいゝだらうかと思つた。岩の上には黄色の湯花がたまり、まるで菖蒲池に水浴してゐるやうにも見える。私は子供のやうに手をつつこんで見た。私のそばで背中を洗つてゐたお神さんは「今日は天氣のせゐか、えらい熱い湯で、ぢつとはいつてをられん」と云つてゐた。湯の湧口に掘立小屋があつて、そこには型ばかりの脱衣場もあつた。
 此湖は、摩周湖のやうに孤獨氣でないだけに、派手で、渚の平地には、所々小さい温泉旅館があつ
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