摩周湖紀行
――北海道の旅より――
林芙美子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)宗谷《そうや》本線の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)斜里《しやり》岳|漂津《しべつ》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「ふかく」に傍点]
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 宗谷《そうや》本線の瀧川《たきがは》と云ふ古い驛に降りた。黄昏で、しかも初めての土地で一人の知人もなかつた。隨分と用意深かく、行く先々の樣子は、旅行案内で調らべておくのだけれども、途中で氣が變つてしまつて、根室《ねむろ》本線へ這入つてみたくなり、乘りかへ驛の瀧川と云ふ處に、周章《あわ》てゝ降りてしまつた。ホームを歩きながら私は驛夫をつかまへて、此町ではどのやうな宿屋がよいかと云ふことを聞かなければならない。樺太以降東京まで直行のつもりでゐたので、最早私の懷もとぼしい。
 町は寒かつた。毛織のスーツが結構間にあつた。
 此町では三浦華園と云ふのがいゝだらうと驛夫に聞いた。荷物を三浦華園の宿引きに頼んで、私は暮れそめた瀧川の町を歩いて宿へ行つた。官吏とか商人とかゞ、足だまりに寄つ
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