ゃろ、こっちゃいおはいりな……。」
噴水の横の鳩の豆を売るお婆さんが、豚小屋のような店から声をかけてくれた。
私は人なつっこい笑顔で、お婆さんの親切に報いるべく、頭のつかえそうな、アンペラ張りの店へはいって行った。
文字通り、それは小屋で、バスケットに腰をかけると、豆くさいけれど、それでも涼しかった。
ふやけた大豆が石油鑵の中につけてあった。
ガラスの蓋をした二ツの箱には、おみくじや、固い昆布がはいっていて、いっぱいほこりをかぶっていた。
「お婆さん、その豆一皿ください。」
五銭の白銅を置くと、しなびた手でお婆さんは私の手をはらった。
「ぜゞなぞほっとき。」
此お婆さんにいくつ[#「いくつ」に傍点]ですと聞くと、七十六だと云った。
虫の食ったおヒナ様のようにしおらしい。
「東京はもう地震はなおりましたかいな。」
歯のないお婆さんはきんちゃく[#「きんちゃく」に傍点]をしぼったような口をして、優さしい表情をする。
「お婆さんお上り。」
私がバスケットから、お弁当を出すと、お婆さんはニコニコして、玉子焼きを口にふくらます。
「お婆あはん、暑うおまんなあ。」
お婆さん
前へ
次へ
全228ページ中87ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング