路を行ったり来たりしたが、随分おかしな[#「おかしな」に傍点]話である。
 あざみの茎のように怒りたった男は、私の背をはげしく突くと閉ざした家へはしってしまった。
「オイ! 鍵を投げろッ!」
 又か……私は泥棒猫のように、台所からはいると、男はいきなり、たわし[#「たわし」に傍点]や茶碗を私の胸に投げつける。

 あ、この瓢軽な粗忽者を、そんなにも貴方は憎いと云うのか……私はしょんぼり井戸端に立って、蒼い雲を見た。
 右へ行く路が、左へまちがったからって、馬鹿だねえと云う一言ですむではないか。
 私は自分の淋しい影を見ていると、ふっと小学校時代に、自分の影を見ては空を見ると、その影が、空にもうつっているあの不思議な世界のあった頃を思い出して、高々とした空を私は見上げた。
 悲しい涙が湧きあふれて、私は地べたへしゃがむと、カイロの水売りのような郷愁の唄をうたいたくなった。

 あゝ全世界はお父さんとお母さんでいっぱいなんだ。お父さんとお母さんの愛情が、唯一のものであると云う事を、私は生活にかまけて忘れておりました。
 前垂れを掛けたまゝ竹籔や、小川や洋館の横を通って、だらだらと丘を降りる
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