ムスンの飢ゑ[#「飢ゑ」に傍点]と云う小説の中にも、蝋燭を買いに行って、五クローネルのつり銭と蝋燭をたゞでもらって来るところがありましたね。」
私も夫も、壺井さんの話は非常にうらやましかった。
梟の鳴いている、憂欝な森陰に、泥沼に浮いた船のように、何と淋しい長屋だろう。
屍室と墓地と病院と、淫売宿のようなカフェーに囲まれた、この太子堂の家もあきあきしてしまった。
「時に、明日はたけのこ[#「たけのこ」に傍点]飯にしないかね。」
「たけのこ[#「たけのこ」に傍点]盗みに行くか……。」
三人の男たちは路の向うの、竹籔を背にしている、床屋の二階の飯田さんをさそって、裏の丘へたけのこ[#「たけのこ」に傍点]盗みに出掛けて行った。
女達は街の灯を見たかったけれど、あきらめて、太子堂の縁日を歩いた。
竹籔の小路に出した露店のカンテラの灯が噴水の様に薫じていた。
六月×日
ほがらかな空なので、丘の上の絹のような緑を恋いして、久し振りに、貧しい女と男は散歩に出る話をした。
鍵を締めて、一足おくれて出ると、どっちへ行ったものか、男の蔭は見えない。
焦々して、陽照りのはげしい丘の
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