こんな詩を頭に描いた。下で三時の鳩時計が鳴る。

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――日記が転々と飛びますが、その月の雑誌にしっくりしたものを抜いて書いておりますので、後日、一冊の本にする時もありましたならば、順序よくまとめて出したいと思っております。
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[#地より2字上げ]――筆者――
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   粗忽者の涙

 五月×日
 世界は星と人とより成る。

 嘘つけ! エミイル、※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ルハァレンの世界と云う詩を読んでいるとこんなくだらない事が書いてある。
 何もかもあくび[#「あくび」に傍点]いっぱいの大空に、私はこの小心者の詩人をケイベツしてやろう。

 人よ、攀ぢ難いあの山がいかに高いとても、
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飛躍の念さへ切ならば、
恐れるなかれ不可能の、
金の駿馬をせめたてよ。
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 実につまらない詩だが、才子と見えて、実に巧い言葉を知っている。
[#ここから2字下げ]
金の駿馬をせめたてよ…………。
[#ここで字下げ終わり]

 窓を横ぎって、紅い風船が飛んで行く。
 呆然たり、呆然たり、呆
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