く。夕方ポーチで犬と遊んでいたら、上野山と云う洋画を描く人が遊びに来た。私は此人と会うのは二度目だ。
 私がおさない頃、近松さんの家に女書生にはいってた時、此人は茫々とした姿で、牛の画を売りに来た事がある。子供さんがジフテリヤで、大変佗し気な風才[#「風才」はママ]だった。靴をそろえる時、まるで河馬の口みたいに靴の底が離れていた。私は小さい針を持って来ると、そっと止めておいてあげた事がある。
 きっと気がつかなかったのかも知れない。
 上野山さんは漂々と酒を呑みよく話した。
 夜、上野山氏は一人で帰って行った。

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地球の廻転椅子に腰を掛けて
ガタンとひとまわりすれば
引きずる赤いスリッパが
片方飛んでしまった

淋しいな……
オーイと呼んでも
誰も私のスリッパを取ってはくれぬ
度胸をきめて
廻転椅子から飛び降り
飛んだスリッパを取りに行こうか

臆病な私の手はしっかり
廻転椅子にすがっている
オーイ誰でもいゝ
思い切り私の横面を
はりとばしてくれ
そしてはいてるスリッパも飛ばしてくれ
私はゆっくり眠りたい
[#ここで字下げ終わり]
 落ちつかない寝床の中で、私は
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