なりそうに思えて困ってしまった。
だけど、私はあの男でもうこりごり[#「こりごり」に傍点]している。
私は温なしく、両手を机の上にのせて、白い原稿用紙に照り返えった、灯の光りに瞳を走らせていた。私の両の手先きが、ドクドク震えている。
一本の棒を二人で一生懸命押しあった。
あゝそんな瞳をなさると、とても私はもろい女でございます。愛情に飢えている私は、胸の奥が、擽ぐったくジンジン鳴っている。
「貴女は私を嬲っているんじゃないんですか?」
「どうして!」
何と云う間の抜けた受太刀だろう。
接吻一ツしたわけではなし、私の生々しい感傷の中へ、巻き込まれていらっしゃるきりじゃありませんか……私は口の内につぶやきながら、此男をこのまゝこさせなくするのも一寸淋しい気がした。
あゝ友人が欲しい。こうした優しさを持ったお友達が欲しいのだけれど……私はポタポタと涙があふれた。
いっその事、ひと思いに殺されてしまいたい。彼の人は私を睨み殺すのかも知れない。生唾が、ゴクゴク舌の上を走る。
「許して下さい!」
泣き伏す事は、一層彼の人の胸をあおりたてるようだったけれど、私は自分がみじめに思えて
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