の詩を書こう。
 夕方から銀座の松月へ行く、ドンの詩の展覧会、私の下手な字が、麗々しく先頭をかざっている。橋爪氏に会う。

 六月×日
 雨がザ…………葉っぱに当っている。
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陽春二三月   楊柳斉作[#レ]花
春風一夜入[#二]閨闥[#一] 楊花飄蕩落[#二]南家[#一]
含[#レ]情出[#レ]戸脚無[#レ]力 拾[#二]得楊花[#一]涙沾[#レ]臆
秋去春来双燕子 願銜[#二]楊花[#一]入[#二]※[#「穴かんむり/樔のつくり」、第4水準2−83−21]裏[#一][#「※[#「穴かんむり/樔のつくり」、第4水準2−83−21]裏」はママ]
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 灯の下に横座りになりながら、白花を恋した霊太后の詩を読んでいると、つくづく旅が恋いしくなった。
 五十里さんは引っ越して来てから、いつも帰えりは、夜更けの一時過ぎ、下の人は務め人なので、九時頃には寝てしまう。
 時々田端の駅を通過する電車や汽車の音が汐鳴りのように聞える丈で、山住いのような静かさだ。
 つくづく一人が淋しくなった。
 楊白花のように美しい男が欲しくなった。
 本を伏せると、焦々し
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