下宿へ行く。
「二人」と云う詩のパンフレットが出来ている筈だったので元気で坂をかけ上った。
窓の青いカーテンをそっとめくって、いつものように窓へ凭れて静栄さんと話をした。この人はいつ見ても若い。房々とした断髪をかしげて、色っぽい瞳をサンゼンと輝やかす。
夕方、静栄さんと二人、印刷屋へパンフレットを取りに行く。八頁だけど、まるで果実のように新鮮で、好ましかった。
帰えり南天堂によって、皆に一部ずゝ[#「一部ずゝ」はママ]送る。
働いて、此パンフレットを長く続かせたい。
冷いコーヒーを呑んでいる肩を叩いて、辻潤さんが、鉢巻をゆるめながら、賛詞をあびせてくれた。
「とてもいゝものを出しましたね、お続けなさいよ。」
漂々たる酒人辻潤さんの酔体に微笑を送り、私も静栄さんも元気に外へ出た。
六月×日
種まく人たちが、今度文芸戦線と云う雑誌を出すからと云うので、私はセルロイド玩具の色塗りに通っていた、小さな工場の事を詩にして、「工女の唄へる」と云うのを出しておいた。今日は都新聞に別れた男への私の詩が載っていた。もうこんな詩なんて止めよう、くだらない。もっともっと勉強して、生のいゝ私
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