ここから2字下げ]
妙に佗しい日だ、気の狂いそうな日だ。天気のせいかも知れない、朝から、降りしきってた雨が、夜になると風をまじえて、身も心も、突きさしそうにキリキリ迫って来る。こんな詩を書いて、壁に張りつけてみたものゝ私の心臓はいつものように、私を見くびって、ひどくおとなしい。
――スグコイカネイルカ
蒼ぶくれのした電報用紙が、ヒラヒラ私の頭に浮かんで来る。
馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿を千も万も叫びたい程、切ない私だ。高松の宿屋で、あの男の電報を受け取って私は真実、嬉し涙を流して、はち切れそうな土産物を抱いて、この田端の家へ帰えって来た。
半月もたゝないうちに又別居だ。
私は二ヶ月分の間代を払らってもらうと、程のいゝ居座りで、男は金魚のように尾をヒラヒラさせて、本郷の下宿に越して行った。
昨日も、出来上った洗濯物を一ぱい抱えて、私はまるで恋人に会いに行くようにいそいそと、あの下宿の広い梯子を上って行った。
あゝ私はあの時から、飛行船が欲しくなった。
灯のつき初めた、すがすがしい部屋に、私の胸に泣きすがったあの男が、桃割れに結った、あの女優と、魚の様にもつれあっている。水の
前へ
次へ
全228ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング