かしいのなら、いっそ乞食にでもなって、全国を流浪して歩いたら面白いだろう、子供らしい空想にひたって、泣いたり笑ったり、又おどけたりふと窓を見ると、これは又奇妙な私の百面相だ。
あゝこんな面白い生き方があったんだ、私はポンと固いクッションの上に飛び上ると、あく事もなく、なつかしくいじらしい自分の百面相に凝視ってしまった。[#地から2字上げ]――一九二三・四――
[#改ページ]
赤いスリッパ
五月×日
[#ここから2字下げ]
私はお釈迦様に恋をしました
仄かに冷い唇に接吻すれば
おゝもったいない程の
痺れ心になりまする。
ピンからキリまで
もったいなさに
なだらかな血潮が
逆流しまする。
心憎いまで落ちつきはらった
その男振りに
すっかり私の魂はつられてしまいました。
お釈迦様!
あんまりつれないではござりませぬか!
蜂の巣のようにこわれた
私の心臓の中に……
お釈迦様
ナムアミダブツの無情を悟すのが
能でもありますまいに
その男振りで
炎のような私の胸に
飛びこんで下さりませ
俗世に汚れた
この女の首を
死ぬ程抱きしめて下さりませ
ナムアミダブツの
お釈迦様!
[#
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