二三人と、温い外に出た。
こんなにいゝ夜は、裸になって、ランニングでもしたらさぞ愉快だろう。
四月×日
「僕が電報打ったら、じき帰っておいで。」ふん! 男はまだ嘘を云ってる、私はくやしいけど、十五円の金をもらうと、なつかしい停車場へ急いだ。
潮の香のしみた故里へ帰るんだ、あゝ何もかも何もかも行ってくれ、私に用はない。
男と私は精養軒の白い食卓につくと、日本料理でさゝやかな別宴を張った。
「私は当分あっちで遊ぶつもりよ。」
「僕はこうして別れたって、きっと君が恋いしくなるのはわかっているんだ、只どうにも仕様のない気持なんだよ今は、ほんとうにどうせき止めていゝかわからない程、呆然とした気持なんだよ。」
あゝ夜だ夜だ夜だよ。
何もいらない夜だよ、汽車に乗ったら煙草を吸いましょう。
駅の売店で、青いバットを五ツ六ツ買い込むと、私は汽車の窓から、ほんとに冷い握手をした。
「さよなら、体を大事にしてね。」
「有難う……御機嫌よう……。」
固く目をとじて、パッと瞼を開くと、せき止められていた涙が、あふれ出る。
明石行きの三等車の隅ッ子に、荷物も何もない私は、足をのびのびと投げ出
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