顔を見合わせた。私は一人立ちしていても貧乏、お夏さんは親のすねかじりで勿論お小遣もそんなにないので、二人は財布を見せあいながら、狐うどんを食べた。
 女学生らしいあけっぱなしの気持で、二人は帯をゆるめてはお変りをしては食べた。
「貴女ぐらいよく住所の変る人ないわね、私の住所録を汚して行くのはあんた一人よ。」
 お夏さんは黒い大きな目をまたゝきもさせないで私を見た。
 甘えたい気持でいっぱい。
 丸山公園の噴水にもあいてしまった。
 二人はまるで恋人のようによりそって歩いた。
「秋の鳥辺山はよかったわね。落葉がしていて、ほら二人でおしゅん伝兵衛の墓にお参りした事があったわね……。」
「行ってみようか!」
 お夏さんは驚いたように瞳をみはった。
「貴女はそれだから苦労するのよ。」

 京都はいゝ街だ。
 夜霧がいっぱいたちこめた向うの立樹のところで、キビッキビッ夜鳥が鳴いている。

 下鴨のお夏さんの家の前が丁度交番になっていて、赤い灯がポッカリとついていた。

 門の吊灯籠の下をくゞって、そっと二階へ上ると、遠くの寺でゆっくり鐘を打つのが響いて来る。
 メンドウな話をくどくどするより、沈
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