あんたいくつ……。」
「僕ですか、廿二です。」
「ホウ……じゃ私の方が上だわ。」
 げじげじ眉で、唇の厚いその顔を何故か、見覚えがあるようで、考え出せなかったが、ふと、私は急に明るくなれて、口笛でもヒュヒュと吹きたくなった。

 月のいゝ夜だ、星が高く流れている。
「そこまでおくってゆきましょうか……。」
 此男は妙によゆう[#「よゆう」に傍点]のある風景だ。
 入れ忘れてしまっ[#「しまっ」に傍点]た国旗の下をくゞって、月の明るい町に出ると濁った息をフッと一時に吐く事が出来た。
 一丁来ても二丁来ても二人共だまって歩いた。川の水が妙に悲しく胸に来て私自身が浅ましくなった。
 男なんて皆火を焚いて焼いてしまえ。
 私はお釈迦様にでも恋をしよう……ナムアミダブツのお釈迦様は、妙に色ッぽい目をして、私の此頃の夢にしのんでいらっしゃる。
「じゃあさよなら、あんたもいゝお嫁さんおもちなさいね。」
「ハァ?」
 いとしの男よ、田舎の人はいゝ。私の言葉がわかったのか、わからないのか、長い月の影をひいて隣りの町へ消えてしまった。

 明日こそ荷づくりして旅立とう……。
 久し振りに家の前の三のついた
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