××産園。
 歪んだ格子を開けると、玄関の三畳に三人許りも女が、炬燵にゴロゴロして居た。
「何なの……。」
「新聞を見て来たんですけど……助手見習生入用ってありましたでしょう。」
「こんなにせまいのに、あいつ[#「あいつ」に傍点]まだ助手を置くつもりかしら……。」

 二階の物干には、枯れたおしめ[#「おしめ」に傍点]が半開きの雨戸にバッタンバッタン当って居た。
「こゝは女ばかりですから、遠慮はないんですのよ、私が方々へ出ますから、事務を取って戴けばいゝんです。」
 このみすぼらしい××産園の主人にしては美しすぎる女が、私に熱い紅茶をすゝめてくれた。下の女達が、あいつと言ったのが此女なのだろうか、高価な香水の匂いがクンクンして、二階の此四畳半だけは、ぜいたくな道具がそろっていた。
「実はね、下にいる女達、皆素性が悪るくて、子供でも産《う》んでしまえばそれっきり逃げ出しそうなやつ[#「やつ」に傍点]ばかりなんですよ。だから今日からでも私の留守居して貰いたいんですが、御都合いかゞ?」
 あぶら[#「あぶら」に傍点]のむちむちした白い柔い手を頬に当てゝ私を見ている此女の瞳には、何かキラキラし
前へ 次へ
全228ページ中222ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング