こんな商売なんて止めようかなア……。
そいでも、北海道から来たお父さんの手紙には、御難つゞきで、今は帰る旅費もないから、送ってくれと云う長い手紙を読んだ、寒さにはじきへこたれるお父さん、どんなにしても四五十円は送ってあげよう。
も少し働いたら、私も北海道へ渡って、お父さん達といっそ行商してまわってみようか……。
のりかゝった船だよ。
ポッポッ湯気のたつおでん[#「おでん」に傍点]屋の屋台に首を突込んで、箸につみれ[#「つみれ」に傍点]を突きさした初ちゃんが店の灯を消して一生懸命茶飯をたべていた。
私も昂奪した後のふるえを沈めながら、エプロンを君ちゃんにはずしてもらうと、おでんを肴に、寝しなの濁り酒を楽しんだ。[#地から2字上げ]――一九二八・一二――
[#改ページ]
一人旅
十二月×日
浅草はいゝ。
浅草はいつ来てもよいところだ……。
テンポの早い灯の中をグルリ、グルリ、私は放浪のカチウシャ。
長い事クリームを塗らない顔は瀬戸物のように固くって安酒に酔った私は誰もおそろしいものがない。
テへ! 一人の酔いどれ女でござんす。
酒に酔えば泣きじ
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