ょうご、痺れて手も足もばらばらになってしまいそうなこのいゝ気持。
酒でも呑まなければあんまり世間は馬鹿らしくて、まともな顔をしては通れない。
あの人が外に女が出来たとて、それが何であろ、真実は悲しいんだけど、酒は広い世間を御らんと云う。
町の灯がふっと切れて暗くなると、活動小屋の壁に歪んだ顔をくっつけて、あゝあすから勉強しようと思う。
夢の中からでも聞えて来るような小屋の中の楽隊にあんまり自分が若すぎて、なぜかやけくそにあいそがつきてしまう。
早く年をとって、いゝものが書きたい。
年をとる事はいゝな。
酒に酔いつぶれている自分をふいと見返ると、大道の猿芝居じゃないが、全く頬かぶりして歩きたくなる。
浅草は酒を呑むによいところ。
浅草は酒にさめてもよいところだ。
一杯五銭の甘酒! 一杯五銭のしる粉! 一串二銭の焼鳥は何と肩のはらない御馳走だろう……。
漂々と吹く金魚のような芝居小屋の旗、その旗の中にはかつて愛した男の名もさらされて、わっは……わっは……あのいつもの声で私を嘲笑している。
さあ皆さん御きげんよう……何年ぶりかで見上げる夜空の寒いこと、私の肩掛は
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