アパートが、火事にでもならないかしら。
 寝転ろんで新聞を見る。
 きまって目の行くところは、芸者と求妻と、貸金と女中の欄だ。
「お姉さん! こんど常盤座へ行かない、三館共通で、朝から見られるわ、私歌劇女優になりたくて仕様がないのよ。」
 ベニは壁に手の甲をぶっつけながら、リゴレットを鼻の先きで唄っていた。

 夜
 松田さん遊びに来る。
 私は此人に拾円あまりも借りがあって、それを払えないのがとても苦しい。あのミシン屋の二階を引き払って、こんな貧乏アパートに越して来たのも一つは松田さんの親切から逃げたい為だった。
「貴女にバナヽを食べさせようと思って持って来たのです。食べませんか。」
 此人の言う事は、一ツ一ツ何か思わせぶりな言いかたになる。
 本当はいゝ人なんだがけち[#「けち」に傍点]でしつこく[#「しつこく」に傍点]て、小さい事が一番嫌いだった。
「私は自分が小さいから、結婚するんだったら、大きい人と結婚するわ。」
 いつもこう言ってあるのに、此人は毎日のように遊びに来る。
 さよなら! そう云って帰えって行くと、非常にすまない気持ちで、こんど[#「こんど」に傍点]会ったら優し
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