煙を眺めて、私は二十通あまりも履歴書を書いた。
 原籍を鹿児島県、東桜島、古里、温泉場だなんて書くと、あんまり遠いので誰も信用してくれないんです、だから東京に原籍を書きなおすと、非常に肩が軽るくて、説明も入らない。
「オーイ」
 障子にバラバラ砂ッ風が当ると、下の土俵場から、画学生達はキャラメルをつぶて[#「つぶて」に傍点]のように投げてくれる。そのキャラメルの美味《うま》かったこと……。

 隣りの女学生かえって来る。
「うまくやってるわ!」
 私のドアを乱暴に蹴って、道具をそこへほうり出すと、私の肩に手をかけて、
「ちょいと画描きさん、もっとほおって[#「ほおって」に傍点]よ。も一人ふえたんだから……。」
「…………。」
 下から、遊びに行ってもいゝか? って云うサインを画学生達が投げると、此十七の女学生は指を二本出してみせた。
「その指何の事よ。」
「これ! 何でもないわ、いらっしゃいって言う意味にも取っていゝし、駄目駄目って事だっていゝわ……。」
 此女学生は不良パパと二人きりで此アパートに間借りしていて、パパが帰えって来ないと私の蒲団にもぐり込みに来る可愛らしい少女だった。

前へ 次へ
全228ページ中217ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング