は打ちつけるような激しい情熱を感じると、蒲団を蹴って窓を開けた。
[#ここから2字下げ]
――思いまわせばみな切な、貧しきもの、世に疎きもの、哀れなるもの、ひもじきもの、乏しく、寒く、物足らぬ、果敢なく、味気なく、よりどころなく、頼みなきもの、捉えがたくあらわしがたく、口にしがたく、忘れ易く、常なく、かよわなるもの、詮ずれば仏ならねど此世は寂し。
[#ここで字下げ終わり]
チョコレート色のアトリエの煙を見ていると、白秋のこんな詩をふっと口ずさみたくなってくる、真《まこと》に頼みがいなき人の世かな。
三階の窓から見降ろしていると、モデル女の裸がカーテンの隙間から見える。青ペンキのはげた校舎裏の土俵の日溜《ひだま》りでは、ルパシカの紐の長い画学生達が、之は又|野方図《のほうず》もなく長閑なすもう[#「すもう」に傍点]の遊び。
上から口笛をプイプイ吹いてやると、カッパ頭が皆三階を見上げる。さあその土俵の上に此三階の女は飛び降りて行きますよッて吐鳴ったら、皆喜こんで拍手してくれるだろう――。
川端画塾横の石屋のアパートに越して来てもう十日あまり、寒空に毎日チョコレート色のストオヴの
前へ
次へ
全228ページ中216ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング