く思えて来る。
「私つくづく家でも持って落ちつきたくなったわ、風呂敷一ツさげてあっちこっち、カフェーや、バーをめがけて歩くの心細くなって来たの……。」
「私なんか、家なんかちっとも持ちたくなんぞならないわ。此まゝ煙のように呆っと消えられるものなら、その方がずっといゝ。」
「つまらないわね。」
「いっそ、世界中の人間が、一日に二時間だけ働くようになれば、あとは野や山に裸で踊れるじゃないの、生活とは? なんて、めんどくさい事考えなくてもいゝのにね。」
階下より部屋代をさいそくされる。
カフェー時代に、私に安ものゝ、ヴァニティケースをくれた男があったが、あの男にでも金をかりようかしら……。
「あゝあの人! あの人ならいゝわ、ゆみちゃんに参ってたんだから……。」
ハガキを出す。
神様! こんな事が悪い事だとお叱り下さいますな。
二月×日
思いあまって、夜、森川町の秋声氏のお宅に行く。
国へ帰えると嘘を言って金を借りるより仕方がない。自分の原稿なんか、頼む事は、あんまりはずかしい気がするし、レモンを輪切りにしたような電気ストーヴが赤くかくかく燃えて、部屋の中は、私の心と五百里
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