何もかも夢のようにと一言瞳を射た優さしい柔い言葉があった。
 何もかも夢のように……落ちついて小説や詩が書きたい。
 キハツで紫の衿をふきながら、
「ゆみちゃん! どこへ行っても音信《たより》頂戴よ。」
 由ちゃんが涙っぽく私へ――えゝ何でもかでも夢の様に――ね。
「そんなほん[#「ほん」に傍点]面白い?」
「うん、ちっとも。」
「私、高橋おでん好きだわ。」
「こんなほん[#「ほん」に傍点]読むと、生きる事が憂鬱《さびしく》なるきりよ。」

 八月×日
 他のカフェーでもさがそうかな。
 まるでアヘン[#「アヘン」に傍点]でも吸っているように、ずるずると此仕事に溺れて行く事が悲しい。
 毎日雨が降る。

 午後二時。
 ボンヤリして、カウンターのそばの鏡で、髪をなでつけていると、立ちうりの万年筆のテキヤが、二人飛び込んで来る。
「あゝ俺アびっくりしたぜ、クリヤマ[#「クリヤマ」に傍点](巡査)がカマ[#「カマ」に傍点]る(来る)からゴイ[#「ゴイ」に傍点](逃げる)ろて、梅の野郎が云うんで、お前をつゝいたんだよ。」
 二人は泥のついた万年筆を風呂敷にしまいながら、
「姉さん! 支那そば
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