トライキは、えれ短かゝったなあ――。」
「ほんまに、どっちも不景気だけんな。」
 船員達が、ガラス窓を拭きながら、話している。
 私はも一度、青い海の向うにポツンとした島を見た。
[#改ページ]

   淫売婦と飯屋

 十二月×日
[#ここから2字下げ]
さいはての駅に下り立ち
雪あかり
さびしき町にあゆみ入りにき
[#ここで字下げ終わり]
 雪のシラシラ降っている夕方、私は此啄木の歌をふっと思い浮べながら、郷愁《かなしさ》を感じた。便所の窓を明けると門灯がポカリとついて、むかあし山国で見たしゃくなげ[#「しゃくなげ」に傍点]の紅い花のようで、とても美しかった。

「姉やアお嬢ちゃんおんぶしておくれッ!」
 奥さんの声がする。
 あゝあの百合子と云う子供は私に苦手《にがて》だ。よく泣くし先生に似て、シンケイが細々として、全く火の玉を脊負っているような感じだ。
 せめてこうして便所にはいっている時だけが、私の体のような気がする。
 ――バナヽ、鰻、豚《トン》カツ、蜜柑、思いきりこんなものが食べてみたいなア。
 気持が大変貧しくなると、落書したくなる気持ち、豚《トン》カツにバナナ私は指で
前へ 次へ
全228ページ中170ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング