昨日の電報ガワセで、義父や母が一息ついてくれゝばいゝ、キラキラした浜辺を、洗い髪をなびかせながら歩いていると、町で下駄屋をしている男の兄さんが、オーイオーイと後から呼びかけて来た。
 久し振りに見る兄さん、尾道の家に、木になった蜜柑や、オレンジを持って来てくれたあの姿そのまゝで、笑いかけている。
「何も言わんもんじゃけん、苦労させやんした。」

 海が青く光っている。
 娘をかえして、二人で町はずれの男の親の家へ行く。
 海近くまで、田が青々して蜜柑山がうっそうと風に鳴っていた。
「あいつが気が弱いもんじゃけん。」
 海にやけた佗し気な顔して兄さんは口をつぐむ。

 家では七十になる老婆が、コトコト米をついていた。牛が一匹優さしい瞳をして私を見た。私は、どうしてもはいりたくなかった。
 何だか、こんなところへ来た事さえも淋しくなった、白い路のつづいている浜路を、私はあとしざりするように、宿へ急いだ。

 六月×日
 颯爽として朝風をあびて、私は島へハンカチを振った。
 どこへ行っても、どうにも仕様のない事だらけなんだ、東京へ帰えろう、私の財布は五六枚の拾円札でふくらんでいた。
 
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