恥ずかしいも糞もあったもんじゃない。ピンからキリまである東京だ。裸になり次手に、うんと働いてやろう。私は辛かった菓子工場の事を思うと、気が晴れ晴れとした。
 夜。
 私は女の万年筆屋さんと、当のない門札を書いているお爺さんの間に、店を出した。
 蕎麦屋で借りた雨戸に私はメリヤスの猿股を並べて「弐拾銭均一」の札をさげると万年筆屋さんの電気に透して、ランデの死[#「ランデの死」に傍点]を読む。
 大きく息を吸うともう春だ。この風には、遠い遠い思い出がある。
 舗道は灯だ。人の洪水だ。
 瀬戸物屋の前には、うらぶれた大学生が、計算記を売っている。
「諸君! 何万何千何百に、何千何百何十加えればいくらになる。皆判らんか、よくもこんなに馬鹿がそろったものだ。」
 高飛車に出る、こんな商売も面白いものだな。
 お上品な奥様が、猿股を弐拾分も捻って、たった一ツ買って行く。

 お母さんが弁当持って来る。
 暖かになると、妙に汚れが目にたつ、お母さんの着物も、さゝくれて来た。木綿を一反買ってあげよう。
「私が少し変るから、お前御飯お上り。」
 お新香に竹輪の煮つけが、瀬戸の重ね鉢にはいっている。舗道に
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