めのこまかい、それに、情熱のこもつた細い眼もとが、隆吉には素直にうけとれた。妙子は知らん顏をしてゐる樣子だつたが、心ではよく承知してゐたとみえて、甘えるやうなかつかうで、その女に洋服の仕立てを頼んだりしてゐる。妙子は機敏に相手を利用する事がうまく、すぐ、もう寒さに向ふ支度をちやんと、心のなかに勘定してゐる樣子である。
何氣ない見合ひであつたけれども、何にしても、お互ひは他人同志である。貰ふにしても、他人同志のぎごちなさをとりはらふには、狹い部屋で年頃の娘と枕を並べて寢ると云ふわけにはゆかない。妙子は駻馬である。隆吉は思ひ迷はずにはゐられなかつた。後日の亮太郎の話によれば、その、宮内はなと云ふ女性も、隆吉に好意を持つてゐると云ふ事であれば、隆吉としては何となく心が動かないではゐられなかつた。五十の坂を越して、自分をすつかり見捨ててゐた時であるだけに、多少なりとも、若い女性に好意を持たれる事はうれしい事である。
「宮内さんは、以前、うちの女房と同じ女學校にも勤めてゐてね。若い娘はあつかひつけてゐるンで、妙子さんにも好意を持つてゐるンだよ。妙子さんの冬服をつくるンだとはりきつてゐたよ」
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