なつたのだと云つた。隆吉は同病相哀れむで、似たやうな夫婦もあるものだと思つた。伊織も醉つて、默つて妙子と事を運んだのはきまりが惡いのだと云つた。
サラリーは二千七百圓ほど取つてゐるのだけれども、毎月、子供の方へ五百圓づつ送らなければならないので、それだけ御承知下さいともはつきり云ふのである。隆吉は瞼がうるんで來るやうな氣持だつた。その正直さが得がたいものだとも思へた。
隆吉は、妙子を伊織のアパートにおくり、戻つて來るとすぐ亮太郎に宮内の話をすゝめて貰ひたい由をつげた。裏口に空地があるので、三疊をたたまし[#「たたまし」はママ]にかゝつた。ミシン二臺位と女の荷物はそこへはいるつもりであつた。建ましの許可もおり、大工もきまり、壁をこはしにかゝつて數日たつても、亮太郎のところからは何の返事もない。
妙子は毎日元氣よく夕方から崩浪亭へ通つて來た。
「お父さん、急におしやれになつたのね」
妙子は父をからかつたりしてゐる。
隆吉もまんざら惡い氣もしなかつたが、亮太郎から返事のないのが何となく不安であつた。――自分で出むいて行くのもきまりが惡かつたので、妙子を河邊のところへ使ひに出してみた
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