りに、この心細い親子の關係をたちきつて、自分のよりどころや、前途を考へるのも不思議はない。――急に宮内はなの細い眼もとを思ひ出した。
「お前とは、大分としが違ふね」
「えゝ、時々、そのひと笑ふのよ。お半長衞門だつて……お半長衞門つてなんだか知らないけど、そんな事どうでもいゝのよ。一緒にゐるのが幸福なンだもの……。少々ひもじい思ひをしても二人とも何ともないの。だから、私に月給をくれゝば、私はそこから通つて來て、みんなにじやんじやん酒を飮まして、崩浪亭をうんとまうけさしてあげるの……。お父さんだつて、宮内さんを貰へば幸福になるわ。もう鷄の聲をきかなくつても、宮内さんが慰さめてくれるでせう?」
 妙子はくすりと笑つた。鷄の聲をきくと、お母さんの事を思ひ出すねと、口ぐせに云つてゐたのを妙子はちやんと覺えてゐたのである。

 二三日して、とぼしい手まはりのものを持つて妙子は隆吉におくられて、伊織《いおり》のアパートに行つた。伊織はちやんと部屋の中を片づけて待つてゐた。妙子は宮内さんのつくつてくれた灰色のスーツを着こんで、いつになくめかしこんでゐた。大柄なせゐかはたち位にはみえた。腰つきもふくらみ
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