を熱くたぎらせたものでした。立派な詩を書きたいと思いました。欧洲にいると、不思議に詩が生活にぴったりして来ますし、日本の言葉でうたった日本の詩が、随分美しく聞えるのです。日本の言葉はきたないから詩には不向きだと云うひともあるけれど、随分もったいない話で、私は欧洲にいて日本の言葉の美しさ、日本の詩や歌の美しさを識《し》りました。
 日本の言葉の一つもない欧洲の空で、白秋《はくしゅう》氏の詩でも、犀星氏の詩でも春夫氏の詩でも声高くうたってみると、言葉の見事さに打たれます。私は日本の言葉を大変美しいと思い、ひそかに自分の母国語にほこり[#「ほこり」に傍点]さえ持ちました。倫敦《ロンドン》の宿では川端康成氏の落葉と云う小説にも言葉の美しさを感じました。
 長い小説を書きたいと思いましたが、根気がないものだから、一枚も出来ませんでした。ここでは、紀行文風な随筆ばかり書いていました。日本へ帰れるあては依然としてないのです。ここでも眼を患いましたが、歩くのに不自由はしませんでした。三月に再び巴里《パリ》までまい戻って、私は日本に帰りたいことにあせり始めました。
 焦々《いらいら》するのは、詩一つ出来
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