文学的自叙伝
林芙美子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)尾《お》の道《みち》と云う

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)文章|倶楽部《くらぶ》と

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)里見※[#「弓+椁のつくり」、第3水準1−84−22]《さとみとん》氏
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 岡山と広島の間に尾《お》の道《みち》と云う小さな町があります。ほんの腰掛けのつもりで足を止めたこの尾の道と云う海岸町に、私は両親と三人で七年ばかり住んでいました。この町ではたった一つしかない市立の女学校に這入《はい》りました。女学校は小さい図書室を持っていて、『奥の細道』とか、『八犬伝』とか、吉屋信子《よしやのぶこ》女史の『屋根裏の二処女』とか云った本が置いてありました。学校の教室や、寄宿舎は、どれも眺めのいい窓を持っていましたのに、図書室だけは陰気で、運動具の亜鈴《あれい》や、鉄の輪のようなものまで置いてありましたので、何時《いつ》行ってもこの図書室は閑散でした。私はこの図書
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