、野上弥生子《のがみやえこ》氏の燃ゆる薔薇、里見※[#「弓+椁のつくり」、第3水準1−84−22]《さとみとん》氏の大地、岩藤雪夫《いわとうゆきお》氏の闘いを襲《つ》ぐもの、この七篇の華々しい小説が、どんなに私をシゲキしてくれたか知れないのです。なお、斎藤茂吉《さいとうもきち》氏のミュンヘン雑記や、室生犀星氏の文学を包囲する速力、三木清《みききよし》氏の啓蒙文学論、河上肇《かわかみはじめ》氏の第二貧乏物語、ピリニヤークの狼の綻《おきて》などと云ったものは、書籍一冊も売りつくして持たない私を、どんなにはげましてくれたかしれません。私の炭坑街放浪記では二ヶ月は遊んで暮らせるほど稿料を貰いました。
その頃、私は稿料と云うものなど思いも及ばなかったのです。私は、雑文を書いては、紹介状もないのにひとりで新聞社へ出掛けて行きました。朝、八時頃、堀の内を発足して丸の内まで歩いて行きますと、十一時頃丸の内に着き、そこで、新聞社に原稿を置いて帰って来るのですが、一度は夕方帰って見ると、もはや速達で原稿が送り返されて来たりしておりました。私の雑文は、詩も随筆も小説も、みんな一つとして満足に売れたことはあ
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