》で、少年が一人寝転んで呆《ぼ》んやり空を見ていた。白い雲が、疏水の水に影をおとして流れている。いい天気だった。堤の下の赤松越しに、四条行きの電車が走っている。電車道の人家の庭には白い卯《う》の花《はな》がしだれて咲いている。磚茶《せんちゃ》の味のような風が吹く。ごろりと横になりたいような景色だった。蹲踞《しゃが》んで水《み》の面《も》をみていると、飛んでゆく鳥の影が、まるで※[#「魚+予」、第4水準2−93−33]《かます》かなんかが泳いでいるように見える。水色をした小さい蟹《かに》が、石崖《いしがけ》の間を、螯《はさみ》をふりながら登って来ている。虻《あぶ》のような羽虫《はむし》も飛んでいる。河上では釣《つり》をしている人もいる。何が釣れるのか知らない。底まで澄んでみえるような水の青さだった。時々、客を乗せた屋形船《やかたぶね》が下りて来る。大津へ帰る船は、船頭が綱を引っぱって、なぎさ[#「なぎさ」に傍点]を船を引いて登って来ている。船は屠殺場行きの牛のようにゆるく河上へ登っている。水のほとりの桜はまだ咲いていた。青葉の間に散りぎわの悪い色褪《いろあ》せた花をのこして、なぎ[#「な
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