らしいと、わたしは、屋根にある桃の鉢を両手にかかえて机へ置いて眺めた。いい苔の色をしていて、素焼《すやき》だけれど、鉢は備前焼のような土色をしていた。
*
早いめに昼食を済ませて、わたしは山科《やましな》の方へ行ってみた。十年位前だったかに、大津から疏水《そすい》下りをしたことがあったが、その折に見た山科の青葉は心に浸《し》みて忘れられなかったので、わたしはあの辺をぶらぶら歩いてみたいとおもった。円タクをひろってどこでもいい景色のいい疏水のほとりに降ろして下さいと云うと、都ホテルの下の道を自動車はゆるく登って行った。都ホテルの堤には、つぼみを持った躑躅の木が堤いっぱい繁っていた。自動車の運転手が、これが蹴上《けあげ》の躑躅だと教えてくれた。
疏水のほとりで降りて、それから橋を渡り、流れに添ってぽくぽく歩いてみた。何と云う町なのか知らないけれども、郊外らしく展《ひら》けていて、新らしい木口《きぐち》の家が沢山建っていた。それでも、時々、廃寺のような寺があったり、畑や空地《あきち》などがあった。寺の門を配した豪奢《ごうしゃ》な別荘もある。廃寺の庭は広々とした芝生《しばふ
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