ぎ[#「なぎ」に傍点]て来るのだと云っていた。小波《さざなみ》の上を吹く風の音さえ聞《きこ》えそうに静かな海だった。夜になると、この辺の船は、洋灯をつけていたが、いまもそうなのだろうか。――島へ来て島の人たちの生活を見ていると、都会の生活とは何のかかわりもないのだ。漁師は漁をし、子供は学校へ行き、百姓は土地をたがやすのに忙《せ》わしいし、造船所の職工は職工で朝から夜まで工場だし、一軒しかない芝居小屋も幾月となく休みだと云うことだ。学校帰りの子供がつくし[#「つくし」に傍点]を沢山とって帰っている。何時《いつ》の日か金の値うちがなくなり、田舎をたよりにしないと誰が云えよう。そう云う暮らしに早く帰って来たいとおもった。自分で食べるものをつくって暮らすのは愉しいことだろうとおもった。地酒をよばれ一泊して尾道へ帰った。

      *

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学校の図書庫の裏の秋の草
黄なる花咲きし
今も名知らず
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 尾道では女学校の庭へも私は行ってみた。女学校には図書庫はないけれど、講堂の裏に、小さい花畑があり猫塚があったりした。そこには小さい花が沢山咲いていた
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