。新らしく出来た運動場には桜の並木にかこまれて、生徒たちがバスケット・ボールをして遊んでいた。
帰りは神戸へも大阪へも寄らず京都へ降りて西竹へ行った。人形が出来て来ていた。幾月か空想していた人形を前にすると、あんまり立派なので(これは大変だな)と思った。
持って来たお波さんは、一人ではこわれてしまうから、わたしも東京へお供しましょうと云ってくれた。人形はびんつけで髪を結《ゆ》っていた。半襟《はんえり》に梅の模様があるのは、野崎村の久松《ひさまつ》の家に梅の木のあるのをたより[#「たより」に傍点]にしたのだからと云うことだった。手は踊りのように自由に動く。まだ娘だから喜怒哀楽がないのだと云って、お染《そめ》の人形は、まなじり[#「まなじり」に傍点]をすずやかにあけて、表情のない顔をしていた。あんまり人形が美しいので、成瀬無極《なるせむきょく》氏や山田一夫氏にも宿へ来て貰って観て貰った。雨が降っていた。肩さきがぬれるほどな細かな雨だった
三人分の三等寝台を買いに行って貰ったが、一つも買えなかったので、わたしたちは空《す》いていそうな遅い汽車に乗った。坐ったなりで身動きも出来ないほどの
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