をきりまはしてゐたひとだけに気丈夫でかんしやうなところが見えます。
「まあ、百合子嬢さまがもう十七になられて、いやもう十年もたちますかいなう、早いものですよ」
 娘のお嫁入りも、半分はこのお婆さんがお嫁に行くやうな鼻息です。離れの先生は、ここのおくにさんが好きであつたのでせう、時々口笛なンぞを吹いておくにさんを呼んでゐます。
 谷間の村は、鶏と兎を飼ふ家が多い。とても平和です。誰かが嚔をしてもよく聞えさうな静かな部落で、月の美しい夜なぞ山の落葉松林が銀の波のやうです。
 お婆さんも是非貴女をお呼びしたいと言つてゐました。こゝはお婆さんに、お婆さんの息子夫婦、それに嫁入りして行く娘さんと、その弟と、学校の先生と、私と、呑気な家庭です。
 いらつしやいませんか。
 お兄様たちによろしく。又――。
[#地から2字上げ]谷間から かづ子
  百合江様

 第三信
Merci bien !
 まあ、私胸がとてもドキドキして、一寸の間夢ぢやないかと思ひました。勇兄さんのお描きなつた海の風景と、チヨコレートにボンボン、コテイのオークルジヨン、雑誌が二冊、とても私の嬉しさ楽しさ、空想してみて下さい。

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