出しました。
「僕が乗合まで荷物持つてあげよう」
眉の太い学生が、私の涙に驚いたのでありませう、ステツキに風呂敷包を両方から通すと、先に立つて歩いてくれました。
だらだらとした砂利道を降りて、丁度振り返ると、駅のホームが眉の上に見えるところで、上の学生達が、両手を振つて冷やかしてゐました。
「オーイ、よく似合ふぜツ」
「そのまゝお嬢さんとこへ泊つちや駄目だよツ!」
私は沈黙つて小さくなつて歩いてゐました。
坂が切れると、不意に大きい激しい流れがあつて、橋の向うの藁屋根の軒に、赤い旗が出てゐました。
「あゝまだゆつくり間に合ひますよ」
それから、何かまだその学生は私に言つたのですが、黒い下りの貨物列車が、トンネルを出て来たので、私にはよく聞きとれませんでした。
「えゝツ、間に合ひますか?」
すると、その学生は汽車の中の兵隊さんのやうに顔をあからめて私に言ひました。
「君、鼻の下に煤がついていますよ」
私はどんなにか恥かしかつたでせう。バスケツトを降ろして急いでコンパクトを出して顔を写して見たら、まア、煤がまるで口髭のやうについてゐました。きつと貴女とお別れする時、泣いたまゝ
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